STUDIO VOICE 江戸川乱歩特集 1986年12号
 スタジオボイスから江戸川乱歩特集の仕事が入った。30ページの特集で俳優を使い乱歩の作品のイメージカットを撮影する仕事だ。
 打ち合わせに行くと撮影する作品のあらすじとその作品につける文章が用意されていた。それだけでも大変なページ数だ。本嫌いの僕に読める訳がなし、読む訳がない。僕の読む本は決まっていてゴルゴ13と面白かった映画の原作本だけだ。原作本からそのシーンをどのように映像化したのかに興味があるからだ。なぜ僕のような本を読まないカメラマンにこの仕事が来たのわからなかった。
 打ち合わせが終わると編集長が「本当に五味さんにやってもらえて助かりました」と言われた。
 「?、、、」。
 流行通信の打ち合わせもあったので上の階の編集部に行くと「スタジオボイスの打ち合わせうまくいった?」と言われた。ボイスから「文学に詳しいカメラマン誰かいないか?」言われ僕を紹介したとのことだった。
 「なぜ僕を?」と言うと
  僕のお父親は東大の文学部の教授で、姉は大正文学研究家、母と兄は東大出の医師ということになっていた。そんな血筋だったらファッション・フォトグラファーなんてやってない。
 なんでこんなストーリーが出来たのかを考えた。以前撮影の時に高校のクラスメートの家族の話をしたことを思い出した。彼女は東大に入れるくらいの学力があったがバレーをやりたくて親の反対を押し切って卒業するとロシアのバレー学校に入ったのだ。その話がいつのまにか僕の話になっていたのだ。
 編集者にその話をしたら「これの方がカッコよくていいんじゃない?」と言われたがそれでは経歴を詐称だ。彼女の勘違いのお陰でおもしろい仕事ができたが写真はカメラマンの経歴には全く関係がない。「本を読まなきゃだめなんだ」なんて事はないのだ。

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